LGBTと
アライのための
法律家ネットワーク
職場同性婚2023.05.30

160以上の企業・団体が「同性婚」賛同、共通して挙げる“企業視点のメリット”とは何か


 ここ数年LGBTQに関する理解が緩やかに進み、同性間の婚姻(同性婚)について、耳にすることが多くなりました。2021年3月には「同性婚を認めない現行法が憲法の平等原則に違反する」と札幌地方裁判所が判断し、広くメディアで報道されました。世界に目を転じると、2000年以降ほとんどの先進経済国で同性婚が実現、わずか20年の間に日本は、中国・インド・ロシア・韓国と並び、グローバル先進経済国の中で少数例外派となりました。2018年9月在日米国商工会議所は同性婚の法制化を提言、約3年弱が経過した現在、同性婚の法制化に賛同する企業・団体数は163社に達しています(2021年6月3日現在)。企業が同性婚に賛同する理由について考えます。(この記事はオンラインメディアBusiness+ITに2021年6月28日に掲載されたものです)。




<目次>
1. ある当事者社員の同性婚への想い
2. 在日商工会議所が提言、企業にとっての「3つのメリット」
3. 160を超える企業・団体が賛同、「正のスパイラル」とは
4. 図解:データで見る、世界における日本の位置づけ
5. 足踏み状態の日本、企業の声が社会を動かす




同性婚の法制化に賛同する企業を可視化するキャンペーン「Business for Marriage Equality」。賛同する企業・団体数は163社に達している(2021年6月3日現在、2023年5月末時点では385社)
(出典:一般社団法人Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に プレスリリース)



ある当事者社員の同性婚への想い
 筆者の私たちは元職場の上司・部下で、稲場さんからのカミングアウトをきっかけとして社内外でLGBTQに関連する取組みを始めました 。稲場さんはカミングアウト後、自分がもっとも実現を望むのは「同性婚」だと語りました。
 「同性婚が認められていないということは、同性愛者に対する差別と偏見の象徴です。婚姻は多くの人に関わっている非常に身近なものであるにもかかわらずそれができない、つまり同性愛者が法律的に差別されているわけで、これほど明確な差別はほかにありません。企業にとって社員一人ひとりが持てる力を十分に発揮できる職場環境を整備することは必須です」
 稲場さんはさらに次のように続けました。
 「LGBTQ当事者にとっては職場でカミングアウトしてストレスを感じずに仕事に集中できる職場環境が理想的ですが、職場環境が整備されているだけではなかなかカミングアウトすることはできません。家族や親戚、友人などの他のステークホルダーの理解が乏しい中、職場でだけカミングアウトすることはなかなか難しく、結局社会全体の理解が進まないと職場でのカミングアウトも増えていかないのです。企業が日本でインクルーシブな職場環境を整備したくとも、日本で同性婚が認められていないということがネックになるのです」




在日商工会議所が提言、企業にとっての「3つのメリット」
 「日本で婚姻の平等を確立することにより人材の採用・維持の支援を」。米国、オーストラリア・ニュージーランド、イギリス、カナダ、アイルランドの在日商工会議所が、2018年9月ある提言を公表しました。
 同性のカップルを異性カップルと婚姻制度上同等に処遇することができれば、企業目線では3つのメリットがあり、他方、グローバル競争、特に人材をめぐる競争を考えるとき、制度整備を怠ることは日本の国際競争力に大きなマイナスとなると下記のように示しています。

(1)国際競争力
 今や高度人材は世界を舞台に活躍し、企業間競争は国境を越えて熾烈に行われています。LGBTの高度人材は、LGBTを尊重し制度上平等に処遇する国と、未整備国の選択に直面したとき、いずれの国・企業を選択するでしょうか。

(2)職場の生産性
 法律上の夫婦であれば、税金・医療・保険・在留資格など、法律上また福利厚生制度上さまざまな保障を受けることができます。しかし日本では、社員の同性パートナーを含む家族を、企業の自主努力によっても、完全に平等に処遇することはできません。
 このような社会環境・職場環境が、LGBT社員の精神面も含めた生産性に大きな負の効果をもたらしていることは最近の調査などからも明らかです。逆に差異を解消することができれば、モチベーション、チームワーク、創造性の発揮を通じて、生産性の向上が期待できます。

(3)企業の社会的責任(CSR)
 国内そして国際的潮流として、SDGsやビジネスと人権の考え方が広く浸透しつつあります。企業が法制度整備を含めダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて努力することは、このような責務の遂行に資するものであり、国際舞台における日本の地位向上にもつながります。




160を超える企業・団体が賛同、「正のスパイラル」とは
 2018年9月に公表された上記の提言の賛同企業・団体は、1年後に56、2年後には倍増して108、2020年11月には「Business for Marriage Equality」という企業の賛同を可視化するための新たなイニシアティブが加わり、賛同企業・団体数が160を超えています。
 いずれの企業もほぼ共通して賛同の理由として、「社員の多様性の尊重」→「社員が本来の力を最大限に発揮できるインクルーシブなカルチャーの醸成」→「高いパフォーマンスの発揮」・「多様な思考が創造する柔軟かつ有益なアイデア」→「顧客の成長・発展に貢献」→「社会が直面する重要な課題の解決に貢献」という、ダイバーシティ&インクルージョンに立脚した正のスパイラルの存在を指摘しています。
 他方、制度がないため、同性パートナーを有する日本人が、米国、カナダ、台湾に流出し、また、LGBTQに対する法的保障がない不安から、家族などの心配・反対にあって、日本への転勤に踏み切れない海外のプロフェッショナル人材の存在など、制度がないための負のスパイラルもまた見えてきます。
 いずれの企業も同性パートナーを有する社員に、育児休暇や結婚祝い金など、企業の自主努力で行える範囲で、取り組みを進めていますが、「企業として独自の取り組みを行うだけでは、性的指向や性自認によって格差がない、より公正な社会は実現できない」ことに気づきはじめています。




図解:データで見る、世界における日本の位置づけ
 ここで、日本が他の先進経済国と比較して本当に例外少数派なのか、データに基づき、確認したいと思います。日本のみがG7諸国で同性パートナーの関係を保障していないこと(イタリアは法的パートナーシップとして、その他の国はすべて婚姻として保障)はすでに広く知られています。




G7での比較




 G20では、欧州連合を除く19カ国中、同性間の関係を法的に保障していないのは、中国・ロシア・インド、中東のトルコ・サウジアラビア、アジア圏のインドネシア・韓国・日本のみで、欧州・南北アメリカ圏諸国は同性間の関係を法的に保障しています。




G20での比較



 OECD加盟国はどうでしょうか? OECD加盟国38カ国中、同性間の関係を法的に保障していないのは、韓国、ラトビア共和国、スロベニア、ポーランド、スロバキア、トルコ、リトアニア共和国のみです。




OECDでの比較




 なお、2020年にOECDが公表した報告書「Over the Rainbow? The Road to Inclusion」は、LGBTIの権利保障に関するOECD諸国の法整備状況を調査・数値化したものですが、同報告書によれば、調査対象35カ国中、日本は34位(最下位はトルコ)に位置づけられているという事実にも留意が必要です。

注:上記で示した「同性間の関係を法的に保障している」とは、「婚姻またはパートナーシップ制度により法的に保障している」の意味とする。各国の法的保障の有無は、「ILGA World」公表の「State-Sponsored Homophobia 2020: Global Legislation Overview Update (Geneva: ILGA, December 2020)」に準ずる。




足踏み状態の日本、企業の声が社会を動かす
 2000年以降、世界の先進国はLGBTQの権利保障に大きく舵を切ったといえます。日本は未だ法制度面では完全な足踏み状態にあるのみならず、自民党の理解増進法案の議論をみて後退するのではないかという懸念さえ聞こえてきます。
 少子高齢化などに伴い、日本経済は必然的にグローバル化し、DX、AIなど経済の仕組みが質的に大きく変容を遂げる中で熾烈な人材競争が展開しています。ダイバーシティ&インクルージョンが、単なる理念や企業の自主努力にとどまれば、日本はますます他国に遅れをとる重大かつ現実の懸念があります。
 2015年に同性婚を実現した米国では、全米で同性婚の可否を決定する最高裁判断を迎えるにあたって、379社の企業が最高裁判所に同性婚を求める上申書を提出しました。2017年12月に同性婚が実現したオーストラリアでは、851の企業・合計2229の団体が、雌雄を決する国民投票において、同性婚賛同の声をあげました。いずれの場合も企業は重要なステークホルダーであり、企業の声が社会を大きく動かしました。
 最後に、ある企業の賛同メッセージで本稿をしめくくりたいと思います。

「企業として独自の取り組みを行うだけでは、性的指向や性自認によって格差がない、より公正な社会は実現できません」。「(当社で)働くLGBT等の性的マイノリティだけでなく、その家族や友人たちを勇気づけ、世論を変え、社会を変える力となれるよう働きかけていきます」。




LGBTとアライのための法律家ネットワーク 理事 藤田直介
理事 稲場弘樹

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