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同性婚2023.05.31

「法改正は急務」伝説の弁護士2人に聞く、「同性婚」議論進まぬ日本はどう見えるのか


2015年6月26日、米国における同性婚の歴史が動きました。米国連邦最高裁判所はオーバーグフェル対ホッジス(Obergefell v. Hodges)裁判において、「米国憲法は同性婚の基本的権利を保護する」という歴史的な判決を下したのです。本記事では、このオーバーグフェル裁判の勝利に大きく貢献し、かつ、婚姻の平等とLGBTQの権利のみならず、差別禁止を含むその他の公民権問題の点においても先駆者として勝利した2人の弁護士、エヴァン・ウォルフソン氏とメアリー・ボナウト氏に話を聞きました。(この記事はオンラインメディアBusiness+ITに2022年3月23日に掲載されたものです)。




エヴァン・ウォルフソン氏(左)とメアリー・ボナウト氏(右)




<目次>
1. 両氏が振り返る「婚姻の平等」実現へのカギ
2. 同性婚法制化が“企業にとっても自分事”である理由
3. 札幌地裁の判決は日本の同性婚事情をどう動かすか
4. 同性パートナーシップ制度の限界、遅れをとる日本




両氏が振り返る「婚姻の平等」実現へのカギ
──米国における婚姻の平等の実現のカギは何でしたか?

エヴァン・ウォルフソン氏(以下、ウォルフソン氏):平等を勝ち取るまでは長い道のりでした。訴訟だけではなく、キング牧師が「社会変革の方法」と呼んだあらゆること、たとえば立法、公教育、直接行動、組織化、資金調達、選挙活動などに関わりました。
 風向きが変わって「婚姻の平等」に対して社会の理解が深まるためには、目的にかなった裁判を提訴すること、社会に大きな影響力を持つ人物に関与してもらうこと、一般の人々に話を聞いてもらうことなどによって、LGBTQである隣人や同僚の生活についての理解を得るという、何年にも及ぶ作業が必要でした。
 訴訟や立法措置は別としても、婚姻の自由を否定されることが、LGBTQ当事者やその家族、彼らの子供や最愛の人々、そして彼らを大切に思う人々にとっていかに大きな影響を及ぼすのかを人々が理解できるように、世間の関心を呼び起こし、ストーリーを共有することが重要でした。




エヴァン・ウォルフソン氏はどんな人物?
 Dentons法律事務所のシニアカウンセル。同性婚を勝ち取るため活動、Freedom to Marryを創設、指揮。1983年にハーバード大学ロースクール在学中に論文を執筆、婚姻の自由が確保された社会へと導くための戦略を推進する活動を始める。現在は、長年の活動で習得した“いかにして勝つか”という知識と経験を生かした助言や支援を、婚姻の自由にかかわらず他の目的のために活動している米国および世界のさまざまな組織や活動に対して提供している。Freedom to Marry Globalの名のもと、婚姻の自由を勝ち取るために活動している日本を含む各国の市民団体への助言や支援もその1つである。




メアリー・ボナウト氏(以下、ボナウト氏):これには粘り強さと忍耐が必要でした。私たちは、さまざまな形で次のステップにつながる勝利を州ごとに得る(婚姻の平等に反する施策を廃止することを含む)ことに尽力するととともに、世論を盛り上げ、賛同の輪を広げることに努めました。米国の法制度は判例に大きく依拠するため、目的にかなった裁判を適切なタイミングで提起することが重要でした。
 そのような背景から、タイミングが良くなければ、LGBTQの法的組織が提訴しないという決定をする場合もありました。しかしその間には、自由や平等、家族問題が危機にさらされていることを示し、婚姻の平等を認める判決を得るための土台作りになると考えた他の重要訴訟の提起を行っていました。
 たとえば、2009年にGLAD(注1)が最初に連邦“婚姻防衛法”に異議を唱えたとき、多くの人はその成功の可能性を疑いました。しかし、わずか数年後の2013年に米国連邦最高裁は、米国対ウィンザー(United States v. Windsor)事件において連邦婚姻防衛法(Defense of Marriage Act)が違憲であると判断しました。ここに至るまでには紆余曲折がありましたが、これがオーバーグフェル裁判での勝利への道を開く重要な足掛かりとなりました。

注1:GLBTQ Legal Advocates & Defenders。LGBTの人々とHIVとともに生きる人々の権利を守るために活動する、米国の法的権利団体。

 私たちはひたすらに、人々が活発に活動し続けられるよう、活動には希望があることを伝えつつ、政府のあらゆる階層や支分局において、企業、労働者、信仰組織、そして多くの人々とさまざまなレベルで取り組んでいく戦略を継続しました。




メアリー・ボナウト氏はどんな人物?
 マサチューセッツ州ボストンの公益法律事務所、GLADで公民権プロジェクトディレクターを務めている。米国における同性カップルの婚姻に初めて道を開いた2003年のマサチューセッツ州でのグッドリッジ対州公衆衛生局(Goodridge v. Dept. of Public Health)裁判で勝訴したほか、米国連邦最高裁において原告弁護団を務め、米国連邦最高裁にて婚姻訴訟において成功裏に弁論をした2人のうちの1人となった。差別対策、刑事司法、少年司法、家族法に関連する訴訟や行政手続きを含む、重要な公民権問題に継続して取り組んでいる。




同性婚法制化が“企業にとっても自分事”である理由
──日本の法律が同性婚を認めるべきかどうかは、立法府と裁判所の問題であると考える人もいます。なぜ企業もこの問題を気にすべきなのでしょうか?

ウォルフソン氏:企業がこの問題を気にすべき理由は、個人の平等と尊厳を支持するのは正しいことだからであり、社会やビジネスの繁栄につながるからです。婚姻の平等はビジネスにとって良いことでもあるのです。企業と雇用主は、差別的な法律に邪魔されることなく、自社の従業員と顧客を大切にすることができるからです。
 社会において差別のない規範を実現すれば、婚姻の平等の実現はその一部なのですが、日本の企業は優れた人材を獲得し続けることができるでしょう。婚姻の平等を実現できれば、「企業」と「企業が採用したい従業員」の双方にとって日本をより魅力的な国にするだけでなく、従業員の生産性や満足度を向上させ、さらには、日本は世界における個人の自由や平等な権利といった民主主義において重要な価値観を、信念をもって支持する人々と同じ立場に立てるでしょう。

ボナウト氏:また、ダイバーシティ&インクルージョンを積極的に受け入れる企業のほうが成功を収めており、人々が本当の自分のまま仕事ができると生産性が向上することも調査で明らかになっています。
 このような価値観は、企業の間ですでに幅広い賛同を得ています。オーバーグフェル裁判では、379名の雇用主と雇用主を代表する組織が、婚姻の自由をビジネスおよび経済的な観点から支持するアミカス・クリエ意見書(注2)を提出しました。日本の経済界もこの価値観の重要性を認識しています。

注2:一般に、アミカス・クリエの意見書は、訴訟の当事者ではない個人または組織が、審理の対象となっている点につき付加的に専門知識や見識を提供するものである。

 今日現在、日本で営業する国内外の企業を含む128の事業者が、日本における婚姻の平等を確立すべきという在日米国商工会議所の意見書に賛同を表明しています。この賛同は、「日本における同性カップルが婚姻に基づく利益を享受できないのは差別的であり違憲である」と判断した2021年の札幌地裁判決においても言及されています。




札幌地裁の判決は日本の同性婚事情をどう動かすか
──日本で婚姻の平等を実現する上で、この札幌地裁の判決はどのような意義を持つと思いますか?

ウォルフソン氏:平等への道のりにおいて、今、私たちは大きな節目に立ってます。事実、あと少しというところです。日本の人々は、LGBTQの家族や友人、同僚がいることに気づき、一般の人々(世論調査によると80%が賛同)、企業(上記参照)、日本弁護士連合会、そして1つの裁判所が婚姻の平等を支持する声を上げました。
 今必要なのは、国会が行動を起こすこと。つまり、より多くの人々が責任をもってこの問題に取り組めるように正式に法律を定め、日本における婚姻の平等を実現させることです。

ボナウト氏:札幌地裁は同性カップルとその家族に対して不公平な取り扱いがなされていることを認めました。法が同性婚を認めるまでは、誰もが当然に享受するに値し、かつ保障されていると札幌地裁が述べている「個人の尊厳」と「法の下の平等」を享受することはできません。だからこそ、法が変わることは急務なのです。




同性パートナーシップ制度の限界、遅れをとる日本
──2021年12月7日、小池百合子知事は東京都が2022年に「同性パートナーシップ」制度を開始すると発表しました。2015年以来、同性パートナーシップをある程度認める地方自治体の数は飛躍的に増え、現在では6県147市区町村となりました。これは人口の約46%をカバーしており、東京都が同制度を実施すればさらに約1400万人がカバーされます。相当大きな取り組みと思えますが、これでは足りない理由を教えてください。

ウォルフソン氏:そのような制度により、同性カップルが一緒に賃貸借契約を締結したり、同性パートナーが入院した際に面会したりすることができるようになるなど、重要な便益を享受できることはとても喜ばしいことで、同性カップルの保護を世間が望んでいるという事実を反映するものです。同性カップル関係の認知を広げるものでもあり、これは大いに必要とされていることです。
 ただ、このような地方自治体レベルの制度は、同性パートナーの死亡時の財産相続権や同性カップルの子どもの親権など、婚姻と同等の権利と利益を提供するものではなく、他国に類をみない状況です。
 日本はG7の中で、同性婚を法的に認めていない唯一の国です(なお、認めている6カ国中5カ国はこれを婚姻の自由として認めています)。現在、31の国(総人口12億人超)が同性カップルの婚姻の自由を認めています。日本は遅れを取りつつあり、世界的な競争力が減り、国内的には不公平性と分断が増す結果となっています。




(引用:160以上の企業・団体が「同性婚」賛同、共通して挙げる“企業視点のメリット”とは何か




ボナウト氏:これらの制度については評価できるとしても、「婚姻」という言葉自体を含め、婚姻の保護に代替できるものではないのです。結婚ができるということは、カップルとその子ども、親族、そしてコミュニティにとってかけがえのないことです。同性カップルの婚姻の支援は、時間と経験とともに改善されてきたに過ぎません。オーバーグフェル裁判では、米国連邦最高裁が、LGBTQ、同性カップルは、婚姻と結びついた「一連の恩恵」から締め出されていると認めました。
 このような婚姻そのもの、そして、それに伴う保護と責任の両方を認めないことは、同性カップルを傷つけ、侮蔑するものであり、「平等についての中心的な教訓」という憲法の違反となっています。すなわち、結婚する権利が認められない限り、LGBTQの人々は、社会の他の人たちと同等であることはありえないのです。




聞き手:LGBTとアライのための法律家ネットワーク 理事 ダニエル・レヴィソン

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